TWI Global Business LOGO

ニュースレター第16 12/20/2016

 

ポイント1.トランプ新政権の政策の中南米への影響(1):在メキシコ企業は米国の貿易救済措置に注意!

トランプ次期大統領候補は国内製造業の復活を公約の柱の一つに掲げてきました。同時に、貿易や不法移民が製造業の職を奪っているとしてメキシコ国境での「壁」の建設、不法移民の追放、NAFTAの見直しあるいは米国の脱退など過剰ともいえる発言を繰り返しました。多くの公約は米国と強固な経済関係を築いてきたメキシコの敵視をその内容としており、メキシコ国内のみならず米国内のヒスパニック系のあいだでも不安が高まっていました。トランプ氏の選挙戦勝利により、そんな不安がより現実味を帯びたのです。

トランプ氏が公約どおりにNAFTAの見直しを迫るのか、脱退するのか、それとも自動車など特定の輸入品目のみNAFTAに基づく免税措置から除外するのかは現時点では定かではありません。

見通しの鍵を握るのは両国を跨ぐ生産サプライチェーンの存在です。2015年の米国の対メキシコ輸入額は中国とカナダに次ぐ2,992億ドル(全体の12.9%)にのぼります。輸入の上位品目(HS四桁)には自動車・自動車部品が占めています。輸出はカナダに次ぐ2,357億ドル(同15.7%)、品目別では自動車部品(HS8708)が最大となっています。この数字だけでも自動車のサプライチェーンが両国経済の生命線となっていることが分かります。

トランプ氏が何らかの策を講じるとしても、NAFTA脱退の道を選ぶ可能性は低いと考えられます。メキシコはFTA締結国以外からの輸入に対して高い一般関税を課しています。米国がNAFTAを脱退すれば米国産の製品は対メキシコ輸出でこれらの高関税の対象となり、米国企業が大きな損害を受けることになるからです。特定のメキシコ産の輸入製品をNAFTAに基づく免税措置から除外する場合でもメキシコの報復措置を招くでしょう。皮肉にも、選挙戦勝利を決定づけたミシガン州やオハイオ州の自動車産業が犠牲者となってしまいます。

現実的手段と公約の履行の両方を勘案すれば、トランプ氏は以下のようなシナリオを選ぶ可能性が考えられます。まずはNAFTAの見直しを加盟国に迫る。しかし見直し交渉は複雑かつ時間がかかる。そこでトランプ氏は特定の製品に対する貿易救済措置の発動に向けて動く。貿易救済措置には(1)製品の輸入急増が国内産業に甚大な存在を与えている場合に発動可能なセーフガード、(2)輸出国内での販売価格よりも低価格で輸出された製品が輸入国内の産業に損害を与えている場合に発動可能となるアンチダンピング税、(3)輸出国政府の特定製品への補助金供与を通じて高い競争力を得た製品の輸入が、輸入国内の産業に損害を与えている場合に発動可能となる相殺関税の三種類があります。これらはWTOでも使用が認められている、一時的な関税引き上げ措置です。オバマ政権も中国製品の輸入に対して多用しています。支持層の製造業労働者に対するアピールになると同時に、濫用しない限りにおいて国内経済への損害を最小限にとどめることができます。

米国における貿易救済措置の発動は商務省と国際貿易委員会が担当しますが、商務長官に企業再生の専門家であるウィルバー・ロス氏が指名された点、米国通商代表(USTR)に鉄鋼大手ニューコアの元CEOダン・ディミッコ氏が候補に挙がっている点は注目に値します。ロス氏は鉄鋼や石炭産業など、いわゆる米国の「斜陽産業」を中心とする企業再生を専門とする投資家です。米国の鉄鋼業界は貿易救済措置の制度を積極的に利用して輸入から産業を守ってきました。日本の鉄鋼業界が米国のアンチダンピング税の犠牲となっているのは有名です。これらの産業の再生に深く関わってきたロス氏が貿易救済措置の利用を意識している可能性は高いといえます。

しかし、これも可能性の一つに過ぎず、当面はメキシコにとって不安な日々が続くことは間違いないといえるでしょう。

ポイント2.2017年中南米経済は回復見通しも依然リスク多く
2016年の中南米経済(IMF10 月発表)は、南米南部共同市場(メルコスール)加盟国のブラジル(△3.3%)、アルゼンチン(△1.8%)、ベネズエラ(△10%)がマイナス成長、太平洋同盟(メキシコ、コロンビア、ペルー、チリ)はチリ(1.7%)を除けばいずれも2%以上の成長を記録する見通しです。

メルコスールの不調はコモディティーブームの終焉に加えて、政策の失敗や消費・生産の低迷など内需要因が挙げられます。アルゼンチンは主要輸出先のブラジルの不景気による輸出減退、フェルナンデス前政権による輸入規制や為替規制の施行、ブラジルはルセフ前政権による過剰な財政支出、各種ビジネス関連規制の施行など、ベネズエラは同国の生命線である原油価格の低迷により厳しい外貨管理を実施、輸入が困難となり深刻なモノ不足が生じ、結果としてハイパーインフレを引き起こしました。資源輸出国で構成される太平洋同盟は国際資源価格の低迷が経済に影響しましたが、堅調な国内消費やサービスなどに支えられてプラス成長を維持しました。経済の自由化の推進に加え、健全なマクロ経済運営が功を奏したと考えられます。

2017年の経済はどうでしょうか。IMFの発表によると、主要国はベネズエラ(△4.5%)を除きいずれもプラス成長予想となっています。ブラジルは年後半から回復して0.5%、アルゼンチンは2.7%の成長が見込まれています。太平洋同盟はいずれの国も2%以上の成長、なかでもペルーは4.1%の高成長が予想されています。

しかしリスクも少なくありません。ブラジルやアルゼンチンは物価上昇率(それぞれ2016年に6.8%、40%弱見通し)や失業率(それぞれ11.8%〈2016年第三四半期〉、9.3%〈同第二四半期〉)の上昇が国民の生活を圧迫しています。ブラジルのテメル新政権は、ルセフ前政権時代に膨れ上がった財政赤字の縮小を図ろうと支出上限の設定に向けて憲法改正を実現しました。成立後には財政赤字の元凶といえる年金改革にも着手する考えを示しています。アルゼンチンのマクリ政権は前政権が導入した数々の規制を緩和してきました。しかし、成長率に加えてインフレや失業率などの数字が改善しなければ、政治基盤が脆弱な現政権の支持率は下がり、野党の台頭を許すリスクが残ります。

米国のトランプ新政権による政策の影響も気になるところです。輸出額全体(2015年)の81%が米国向けのメキシコにとってはNAFTA見直しや米国の脱退が大きなリスクとなるでしょう。トランプ氏の公約どおりにオバマケアの見直しが実施されれば米国内のヘルスケア市場が縮小し、対米医療機器実績があるメキシコ、ブラジル、コスタリカなどが影響を受ける可能性が残ります。トランプ氏が強調するインフラ拡充・整備は資材需要を引き上げるため、チリやペルーなどの資源国にとってメリットがあると考えられる一方、入札には建設資材を米国から調達することを条件とする「バイアメリカン」条項が導入されればそのメリットは減少することになります。

2017年の中南米経済は一定の回復が予想される一方、リスクも多い年になりそうです。