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TWI Global Business ニュースレター 第33号 06/22/2018

TWI Global Business (Div. of Teruko Weinberg Inc.)

目次:

AMLO政策の実現には多くの制約

 

AMLO政策の実現には多くの制約

メキシコ大統領選で健闘を続ける左派国家再生運動(MORENA)党のアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール(AMLO)候補の勝利が見えてきました。5月下旬のレフォルマ紙調査でAMLOの支持率は52%と過半数超えを達成、同26%で二位のアナヤ候補(国民行動党(PAN)や革命民主党(PRD)など中道右派・左派連立の擁立)、19%で三位のミード候補(現政権与党の制度革命党(PRI)の連立政党擁立)との差を7月1日の選挙を目前にして広げています。大統領選には決選投票はないため、過去二回の大統領選で敗北したAMLOが「三度目の正直」で勝利する可能性が極めて高くなっているといえます。

AMLOは低所得者層の生活の向上や社会プログラムの充実などを公約する一方、現政権が進めてきたエネルギー改革や新空港の建設などの動きを厳しく批判しています。また、NAFTAは大企業のための協定であり、低所得者層に利益をもたしていない旨繰り返し主張しています。PRIやPANなどのエスタブリッシュメント政党による汚職や治安の悪化を厳しく追及、同様に不満を感じている国民の支持率の維持へとつながったといえます。

加えて、大統領選挙と同時に実施予定の議会選挙でも自身のMORENA党が躍進しそうです。上述の調査では、MORENA党の支持率は上院議会で36%、下院議会では42%と高くなっています。このままいけば、単独では過半数には届かないものの、連立与党の結成や法案によっては他の政党の議員の支持を受ける可能性も考えられ、少なくともAMLOの求める各政策が議会と真っ向対立するような場面はそれほど多くは見られないとの予想が少なくありません。

メキシコの経済開放や自由貿易路線の利益を受けてきた企業にとってはまさに懸念されるシナリオが迫っているといえるでしょう。

しかし、AMLOが実際に公約どおりにポピュリスト的な政策を導入できるかは未知数です。少なくとも過激な政策の実現には数多くの障壁があります。一つは金融市場です。メキシコ・ペソの一日あたりの取引額は約900億ドルに達しているといわれており、通貨下落に対する中央銀行の防衛能力には限界があります。メキシコ国債の六割は外国投資家が所有しています。ペソの急落は国民経済を直撃し、結果として支持率の低下につながりかねません。したがって激しい政策の変化は金融市場により制約を受けることになります。二つ目の障壁は国際協定です。メキシコは2018年1月に「国家と他の国家の国民との間の投資紛争の解決に関する」(ICSID)条約に署名しました。ICSIDに基づき、外国投資家は投資受け入れ国とのあいだの紛争の調停・仲裁を世界銀行に付託することができます。ゆえにエネルギー分野や空港などのインフラ分野への政府の介入に対して一定の歯止めをかけることができると考えられます。三つ目は憲法です。ペニャニエト現政権が進めているエネルギー改革は憲法改正に基づくものです。MORENA党候補のなかにはエネルギー改革を振り出しに戻すなどの主張が聞かれますが、これには上下両院で3分の2および各州議会での過半数の賛成が必要となり、実現は容易ではないと考えられます。

もちろん、企業が直面するであろう政策の影響もあります。安価な労働賃金を求めて進出した自動車などの製造業にとっては継続的な賃金の引き上げ策に悩まされる公算が高いといえます。厳しい財政状況のなか、低所得者層支援の過剰な歳出を企業への増税で賄う可能性もあります。NAFTA交渉や移民問題を巡りトランプ政権との対立が深まれば、米国の輸入制限措置の標的とされるリスクが高まるとも考えられます。

「チャベスよりはルーラ」、とAMLOの政策の見通しを過去の南米の左派大統領の政策に例える声が聞かれます。ベネズエラの故チャベス大統領は「21世紀型社会主義」を掲げて大規模な国有化政策を進め、後の政情不安を引き起こす基盤を築いていきました。他方、2003年にまさに「三度目の正直」で大統領選に勝利したブラジル左派労働党のルーラ前大統領は、最低賃金の引き上げや低所得者層向けの所得補助などに従事する一方、当初の選挙公約や専門家の予想に反して現実的な経済政策を導入、やがて「ブラジルの奇跡」と呼ばれる高度成長を実現しました。

AMLOの政策がビジネスに影響をおよぼすリスクは否定できません。しかし、多くの制約もあることから、選挙戦での過激な主張よりは穏健な左向きの政策を採っていくとの見方が強まっているようです。

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