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TWI Global Business ニュースレター 第36号 10/25/2018

TWI Global Business (Div. of Teruko Weinberg Inc.)

目次:

ブラジルの「トランプ」誕生に大きな一歩

 

ブラジルの「トランプ」誕生に大きな一歩

「専制政治が好ましい」「警察は銃をもっと活用すべきだ」「死刑制度の復活を求める」――――度重なる過激な発言や演説中に起きた参加者による自身への襲撃などで話題を集めた極右派の社会自由党(PSL)ボウソナーロ候補が、7日のブラジル大統領選挙でトップとなる46%の得票率を獲得しました。過半数に達しなかったため、得票率29.3%で二位の左派労働党(PT)フェルナンド・アダジ候補と28日の決選投票で争うことになりました。

ボウソナーロ氏の選挙戦はトランプ米大統領のそれを思い起こさせます。いわゆる「エスタブリッシュメント」政党から離れた存在、過激な発言や悪態をつく演説など、現代の政治の流れの中で生まれた「異端児」を有権者に想起させます。自由貿易主義や左寄りの政策により取り残された白人中間所得層の不満を煽りつつ、NAFTAやTPPからの自国の脱退や不法移民の排除といった主張を繰り返したのがトランプ氏であれば、ボウソナーロ氏は歴史的な景気後退、制度の疲弊、政治家や役人の賄賂の横行に対する国民の不満が膨れ上がる中(バックナンバー第26号、第27号参照〈リンクを張り付けください〉)、手段を択ばずに腐敗の撲滅と治安の改善に取り組んでいく姿勢を明確にしました。いずれも伝統的政治制度への挑戦であり、政治に対して強い不信感を抱く有権者の目には英雄に映っているかもしれません。

ボウソナーロ氏に対する国民の強いアレルギー反応もトランプ氏と似ています。選挙直前の世論調査では「ボウソナーロ氏に投票することはない」と回答する有権者は全体の半分程度にのぼっていました。しかし、腐敗や治安悪化への取り組みは有権者の最大の関心事項の一つです。ソーシャルメディアを駆使して改善を約束するボウソナーロ氏の支持率はじりじりと上昇していきました。

根強い国民人気を誇った、汚職事件有罪で服役中のルーラ元大統領に代わって労働党候補となったアダジ氏も、選挙日が近づくにつれてコアな労働党員のあいだで支持率を高めていきました。9月28日発表のダッタフォーリャ世論調査ではボウソナーロ氏との差を6%ポイントまで縮めました。さらに、二人の決選投票となればアダジ氏に投票すると回答した有権者は45%にのぼり、ボウソナーロ氏の39%を上回るほどでした。

しかし蓋を挙げてみれば、両者の得票率の差は16.7%ポイントと大きく開く結果となりました。ここへきてブラジルの経済界でも静かにボウソナーロ氏を推す流れが強まっているようです。ボウソナーロ氏は「稼いでも強盗されれば意味がない」との考え方であり、経済政策は二の次の印象があります。一方でシカゴ大学で経済学を学んだ銀行家のパウロ・グエデス氏を経済アドバイザーに任命すると同時に、民営化の推進や膨らみ続ける財政赤字の解消に向けた政府支出の大幅な削減や減税を提唱しています。対照的にアダジ候補は政府の積極的な市場介入や開発主義など、労働党の基本的な考え方を前面に出しています。貧困層のコアな支持にはアピールできる反面、国民による抗議行動に火をつけた労働党の腐敗に加えて、景気後退を導いた過度な財政投下やビジネス規制といった悪いイメージにつながったと見る向きもあります。

次第にボウソナーロ氏の勝利が見えてきました。ニューヨークの野村證券はボウソナーロ氏が勝利する確率は70%と8日に発表しました。アダジ氏は選挙後に刑務所にいるルーラ氏と面会、今後の選挙戦のアドバイスを求めた旨ブラジルの有力誌が報じています。根強い人気があるとはいえルーラ氏は囚人です。この行動はコアな労働党員以外の有権者には「ルーラ氏の操り人形」や労働党の腐敗のイメージを強めるだけと考えられます。

1985年の民主化から30年以上が経過したブラジルは岐路に立っています。民主化の発展と同時に進んだ制度疲弊の是正に向けて国民は「ポイズンピル」を飲むのか。最終決戦に注目が集まります。

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